作家 井上奈奈の家にまつわる7つのエッセイをまとめた、「絵本を建てる」が発売となりました。
井上奈奈の作品や本づくり、絵本創作ワークショップのことをまとめた「星に絵本を繋ぐ」(雷鳥社)の中に「絵本を建てる」というタイトルのショートエッセイがあります。ここには建築家の父親のことや、建築について学んでいた時期のことが書かれていて、最後に「本作りはまさに建築ではないか?」と綴っています。
建築について深い思いを寄せる井上奈奈さんが本作りに向き合う姿は、建築家そのもので、建築において、地盤や基礎作りから、外装設計、内装設計、そして建築に使われるボルト1本までこだわりぬくように、本の著作そのものはもちろんのこと、造本においても並々ならぬ熱量で制作をされ、使用する紙やインク、印刷手法、製本に使う糸などあらゆる細部が著作に合う形になるよう設計されています。それは、アート作品のように奇抜なものを作るというより、本文を語る上で、その魅力を伝えるにはどのような形にすればよいのかというプロセスで生まれる形であって、そこには無駄な装飾は含まれていません。
「星に絵本を繋ぐ」は 2021年に雷鳥社より出版され、KISSA BOOKS が出版社を始める前に井上奈奈さんと一緒に取り組んだ本で、出版社を立ち上げるきっかけとなった本です。「絵本を建てる」というフレーズは、「星に絵本を繋ぐ」のタイトル案を考えていた時に、本制作のインタビュー取材の帰りの電車の中で、装丁デザイナーの芝さん(文教図案室)がタイトル候補として出していただいたものでした。タイトルとしては採用されなかったものですが、井上さんがその言葉をとても気に入っていて色々な場面で使っています。
昨年 2023年1月~3月の期間、八戸ブックセンターでギャラリー展「絵本を建てる 井上奈奈の仕事展」が開催され、この時に展示にあわせて井上奈奈さんによる書き下ろしエッセイを八戸ブックセンターで刊行されました。このときは、井上さん自身がデザインされ、中綴じ小冊子を、「絵本を建てる」にちなんで家の形をしたケースに収めた形で作られました。限定100部だったこともあり、1月中に完売になった本です。
この時点で、KISSA BOOKS は出版社を立ち上げて1年ほど経ち、井上奈奈さんの「ウラオモテヤマネコ」の新装版も刊行済みだったこともあり、井上さんより増刷(復刊)という形で、KISSA BOOKSより「絵本を建てる」を出版しないかと相談を受けたのが、2023年2月初めのことです。この企画段階では、5月に「ウラオモテヤマネコ」の原画展を gallery kissa で行うので、その時までに出版しようという話でした(汗)。また、出版の依頼を受けたとき「絵本を建てる」という言葉を出していただいた、芝さん(文教図案室)にデザインを依頼したいと井上さんに伝え、企画がスタートしました。
企画段階で、井上さんより、「出来ればケースが家の形ではなく、本が家の形になるものに出来ないか」というアイディアを伝えられ、確かに面白そうだけど、それを実現するには、製本やその他色々大変そうだと思いながら、スタートします。また、同時期にデジタル孔版印刷機のリソグラフ機を導入する予定があったため、なるべく製本にお金をかけられるよう、本文はリソグラフで自前で印刷して、特殊な造本をしている製本屋に相談してみようと思い、特殊な造本を多数手がけている篠原紙工へ相談に行こうと話が進みます。
篠原紙工さんで最初の打ち合わせを行ったのは、2023年5月、それから数々のアイディアや試作を経て、ようやく発売することが出来ました。随分のんびりと制作していると思われるかもしれませんが、本当にギリギリの最後、先月までデザイン変更や仕様変更を繰り返して納得のいく形を探っていました。
7月7日は、井上奈奈さんにちなむ「ナナ」の日ですので、春に完成のめどが立って5月に発売しようと、予定を組んでいたのですが、今までの経緯を考えてある程度余裕をもって7月に変更しました。7月に発売であれば、7月7日発売が丁度ぴったりと記念日に合わせるという意味で設定し、余裕のスケジュールかと思っていましたが、最終的には7月7日が本当にぴったり(ギリギリ)の日取りで発売日を迎えました。
KISSA BOOKS 刊行の井上奈奈「絵本を建てる」では、追加のエッセイと一新した挿絵を加え、7章で構成した家にまつわる話で綴られた本となっています。家と建築、絵本作りについて、井上奈奈さんの絵本とは一味違う世界をお楽しみください。
本日より、gallery kissa で「絵本を建てる」出版記念展 =九冊と一冊 手仕事とプロダクトのあいだ= が開催です。今回は、新刊発売の「絵本を建てる」の展示販売に加え、書籍「星に絵本を繋ぐ」でも特装版制作のインタビューで登場いただいた、空想製本屋さんの代表 本間あずささんと、製本教室生徒さんの作品九冊の展示となります。それぞれが、造本と建築という2つのキーワードを融合する個性あふれる作品になっています。
出版記念のオープニングイベントとして、2024年7月7日 14:00より、篠原紙工代表取締役 篠原 慶丞さんと井上奈奈さんとのトークイベントを開催します。造本のプロフェッショナルと、「本作りは建築と同じ」と語る作家 井上奈奈、ぜひ「絵本を建てる」の展示と共に、トークイベントにお越しいただけたら幸いです。
7月7日のトークイベント以外にも、7月21日の「九冊と一冊 特装本 参加作家によるプレゼンテーション」や、8月4日の「サイアノタイプ(青写真)ワークショップ」なども予定しています。詳細は、展示リンクを参照ください。
絵本を建てる
井上奈奈(著/文)
本を建築物として
制作してきた
作家 井上奈奈による
心の家を綴った
エッセイ集
税込定価(10%)¥2,970
出版社 : KISSA BOOKS
発売日 : 2024/7/7
言語 : 日本語
単行本(並製) : 72ページ
ISBN-10 : 4910943046
ISBN-13 : 978-4910943046
著者略歴
井上奈奈【著】
作家。京都府舞鶴市出身。東京都在住。
16歳のとき単身アメリカへ留学、美術を学ぶ。武蔵野美術大学卒業。2018年に絵本『くままでのおさらい』特装版(ビーナイス)がドイツライプツィヒにて開催された「世界で最も美しい本コンクール」にて銀賞を受賞。同作品で第51回造本装幀コンクール/日本印刷産業連合会会長賞受賞。2021年に初の作品集となる『星に絵本を繋ぐ』(雷鳥社)を刊行。2022年に冒険家 荻田泰永氏との共著『PIHOTEK 北極を風と歩く』(講談社)にて第28回日本絵本賞大賞受賞。同作品にて第56回造本装幀コンクール/日本書籍出版協会理事長賞を受賞。他の著作に『ウラオモテヤマネコ』(KISSA BOOKS)、『猫のミーラ』(よはく舎)、『せかいねこのひ』(新日本出版社)などがある。本作りを建築と捉え、制作を続けている。http://www.nana-works.com/